民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)が2026年6月17日に成立し、2026年6月24日に公布された。自筆証書遺言の押印任意化、成年後見制度の見直し、法務局を活用する保管証書遺言の新設という3つの柱で構成され、施行期日は公布の日から起算して1年から3年以内の政令指定日に分かれる。

何が決まったのか

2026年6月に成立した法改正において、長年にわたり形式的な不備による無効トラブルが指摘されてきた自筆証書遺言の作成要件が緩和されることが確定した。法務省の公表資料によれば、自筆証書遺言における押印義務の任意化と、法務局が遺言書の内容確認に関与する新たな方式である保管証書遺言制度の創設が盛り込まれている。

現行の民法第968条においては、「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」と定められており、押印の欠落は遺言全体を無効とする厳格な要式性が課されていた。改正法では、押印の有無のみをもって一律に無効とせず、本人の真意に基づく作成であることの確認手段を多様化させる方向性が示されている。

また、遺言制度と密接に関連する成年後見制度についても、本人の自己決定権の尊重および利用しやすい制度設計に向けた見直し規定が同法律の中に包括されている。制度の全体像については、以下の関連記事でも整理されている。
任意後見と法定後見は何が違うか|条文と2026年改正の位置づけ

中身の整理

公表された法改正資料に基づき、現行制度と改正法における設計の差異を比較対比して整理する。法務省の資料から読み取れる範囲において、遺言作成の実務に直接影響を及ぼす要点は次の通りである。

制度・方式 現行法の要件 改正法による変更点 実務上の位置づけ
自筆証書遺言(押印) 全文・日付・氏名の自書に加え押印が必須要件 押印要件の任意化(自書性等の確認手段を重視) 押印漏れによる形式的無効リスクの軽減
保管証書遺言(新設) 現行制度には存在せず(法務局自筆保管制度のみ) 法務局における事前の形式確認を伴う保管方式の創設 公正証書遺言と自筆証書遺言の中間的選択肢
成年後見との連動 後見開始による包括的な代理権付与が中心 本人の意思尊重と身上保護を重視した運用見直し 親の判断能力低下時における柔軟な支援体制

家族間での資産承継や親の意思確認をどのように進めるかという対話の進め方については、以下の記事も参考になる。
親と相続の話をどう切り出すか|こじれた例から逆算する

なお、自筆証書遺言における押印が任意化される場合であっても、全文および日付、氏名を本人が自筆で作成する基本要件そのものが撤廃されるわけではない点には留意が必要である。財産目録のパソコン作成が認められた過去の改正と同様に、自書の真正性をどのように立証するかという実務上の論点は引き続き重要となる。

いつから

改正法は公布の日(2026年6月24日)から一律に施行されるのではなく、内容に応じて3段階の施行期日が設けられている。公布資料に定められた上限期日を基準として施行時期を整理した。

改正事項 法律附則の定め 施行の上限日 施行状況(2026年9月時点)
自筆証書遺言の押印任意化 公布の日から起算して1年を超えない範囲内 2027年6月24日 未施行(現行要件が適用)
成年後見制度の見直し 公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内 2028年12月24日 未施行(政令指定待ち)
保管証書遺言の新設 公布の日から起算して3年を超えない範囲内 2029年6月24日 未施行(法務局システム整備中)

算式: 施行上限日 = 公布日(2026年6月24日) + 附則規定の制限期間。実際の施行期日は各段階ごとに政令で具体的に指定されるため、上限日より前に前倒しで施行される可能性がある。

いま動く必要があるか

法改正のニュースを目にすると、直ちに遺言書の書き直しや作成手続きに着手しなければならないかのように感じられる場合があるが、現時点において急ぐ必要のないケースが大半を占める。特に新制度は施行前であるため、現時点で押印を省略した自筆証書遺言を作成しても無効になるという重大なデメリットと制約がある。

第一に、押印の任意化や保管証書遺言の新設は未だ施行されておらず、現行の民法第968条がそのまま効力を有している。したがって、現在作成する自筆証書遺言については従来通り実印等の押印を行わなければ無効となるため、施行前に押印を省略した遺言書を作成することは厳禁である。

第二に、すでに適式に作成された公正証書遺言や、法務局の遺言書保管所に預け入れられている自筆証書遺言が存在する場合、新制度の施行を理由に再作成を急ぐ実益は乏しい。現行法に基づいて成立した遺言書は、新法施工後も有効な遺言として効力を維持する。

民間の信託制度などを活用した資産管理の検討については、以下の解説記事で公表費用を整理している。
家族信託にかかる初期費用は何にいくらか|公表料金の内訳

親の判断能力が十分にある段階であれば、まずは財産目録の整理や家族間での希望の共有といった事前準備を進めることが先決であり、新制度の政令指定や法務局の手続き詳細が公表されるのを待ってから具体的な方式を選択するのが合理的である。

【記事情報】
出典:法務省「民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)」 確認日2026-09-15
※本記事は弁護士等の専門家監修を受けていません。公表された法律案および附則資料に基づく客観的な整理であり、個別事案の法解釈については弁護士または司法書士、公証役場へご相談ください。