「口座凍結」という手続きが制度としてあるわけではありません。全国銀行協会の考え方は「預金を払い出す場合には預金者本人の意思確認が必要となるため、家族といえども預金者の預金を払い出すことはできない」と書いています。動かせなくなるのは意思確認ができなくなったときで、その前に届出をしておくかどうかで結果が変わります(2026年8月25日確認)。

順序の理由

全国銀行協会が2021年2月18日に公表した「金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方(公表版)」を原典で確認すると、銀行側の出発点は明快です。預金は本人の資産であり、払い出すには本人の意思確認が要る。だから家族でも代わりに引き出せない。認知判断能力が下がって意思確認ができなくなった時点で、この原則が壁になります。

ここで効くのが順番です。代理の届出も、任意後見契約も、本人に判断能力があるうちにしか作れません。判断能力が下がってから動こうとすると、選べるのは家庭裁判所を通す道だけになります。制度を先に決める必要はありませんが、どの口座がどこにあるかを知らないままだと、届出も申立ても始められない。情報の把握が先に来る理由はここにあります。

銀行が見ているのは5つの状況

同じ資料は、状況を5つに分けて整理しています。(1)通常取引、(2)認知判断能力が低下した顧客本人との取引、(3)法定代理(成年後見人等)、(4)任意代理(親族等)、(5)無権代理(親族等)。分岐は2つで、本人に認知判断能力があるか、そして代理権があるかです。

家族にとって現実的な違いが出るのは(4)と(5)です。(4)の任意代理は、本人から親族等への有効な代理権付与が行われ、銀行が任意代理人の届出を受けている場合で、資料は「当該任意代理人と取引を行うことも可能」としています。届出が済んでいれば、判断能力が下がった後も窓口が動く余地が残ります。

(5)の無権代理は、代理権がないまま親族が払出しを頼む形です。資料はこれを「本人の認知判断能力が低下した場合かつ成年後見制度を利用していない(できない)場合において行う、極めて限定的な対応」と位置づけ、「成年後見制度の利用を求めることが基本」と書いています。そのうえで、認知判断能力を喪失する以前であれば本人が支払っていたであろう本人の医療費等の支払い手続きを親族等が代わりにする行為など、本人の利益に適合することが明らかである場合に限り、依頼に応じることが考えられる、としています。あくまで例外の整理であって、頼めば通るという話ではありません。

本人が認知判断能力を喪失していることの確認方法についても記載があります。本人との面談、診断書の提出、本人の担当医からのヒアリング。診断書がない場合は複数行員による本人面談や、医療介護費の内容等のエビデンスの確認が挙げられています。窓口で何を求められるかは、この記述からある程度読めます。

そして重要な留保が資料自身に書かれています。「本考え方は、会員各行の参考となるよう取りまとめたものであり、会員各行に一律の対応を求めるものではなく、個別の状況等により、本考え方と異なる対応が取られるケースもあり得る」。さらに脚注で「銀行としてより厳格な対応を行うケースや、取引のリスクが大きいと判断された場合に取引を謝絶するケースはあり得る」とも書いています。つまり銀行ごとに対応が違いうるという前提で、取引先の銀行に個別に確認する必要があります。

確認すること

確認すること 確認日
親名義の口座がどの銀行にいくつあるかを一覧にした
各銀行に代理人の届出制度があるか、窓口に条件を聞いた
年金や家賃など、口座を経由する定期的な入出金を書き出した
医療費・施設費の引き落とし口座がどれかを確かめた
親本人が窓口へ行ける状態のうちに、届出の要否を判断した

※ 暗証番号・ネットバンキングのID・パスワードは、このシートには記載しない前提で設計しています。

1行目の口座の一覧が最初に来る理由は単純で、これがないと他の4行が始められないからです。通帳が見つからない銀行にも残高が残っていることがあり、口座の数を親本人も覚えていないケースがあります。ここは制度と関係なく、帰省したときにできる作業です。

2行目の代理人の届出は、銀行によって名称も条件も違います。全銀協の資料が示すとおり一律の対応を求めるものではないので、「代理人届」「代理人カード」「予約型代理人サービス」など、取引先ごとに何が用意されているかを窓口で聞くしかありません。本人と一緒に行けるうちに確かめておくと、後から作り直す手間が出ません。

3行目と4行目は、口座が動かせなくなったときに何が止まるかを先に知っておくためのものです。年金の入金口座と、施設費の引き落とし口座が同じで、そこが動かせなくなると生活の資金繰りが一度に詰まります。分けておくかどうかは家庭ごとの判断ですが、どれがどれかを把握していないと判断そのものができません。

5行目だけは期限があります。届出も任意後見契約も本人の意思が要るので、本人が窓口へ行ける状態のうちにしか作れません。ただし全部を一度にやる必要はなく、まずは口座の一覧だけでも十分に前進です。詳しい整理の順番は親のお金の把握はどこから始めるか。相続の前に集める情報チェックリストに置いています。

数字の背骨

全銀協の資料には、この考え方が作られた背景の数字も載っています。成年後見制度の利用者総数は2018年12月末で約22万人。一方で、2012年時点の推計で65歳以上の高齢者のうち認知症の方は約462万人とされています(いずれも同資料の記載・2026年8月25日確認)。制度を使っている人の数が、想定される必要とかけ離れているという構図です。

資料は、家族に成年後見制度の利用を促しても、月々の費用や、第三者に家族の資産を委ねることへの抵抗感等を理由に制度を利用してもらえないケースがある、とも書いています。銀行の窓口で制度の利用を勧められたときに感じる距離感は、業界側も把握しているものです。

制度の側は2026年6月の改正で動きます。後見と保佐が廃止されて補助に一元化される方向で、施行は政令待ちです。任意後見と法定後見の入口の違いは任意後見と法定後見は何が違うか|条文と2026年改正の位置づけに、改正の全体像は成年後見制度はこう変わる。2026年改正の内容と施行時期を原典で整理にまとめました。

切り出し方

「凍結される前に」という言い方で切り出すと、財産を狙われていると受け取られることがあります。自分側の事情を入口にするほうが通りやすい場面があります。たとえば、入院の付き添いで急に支払いが必要になったときに、自分がどこへ行けばいいのか分からない、という言い方です。事実としてそのとおりですし、親を守る話ではなく自分が困る話になります。

銀行の窓口へ一緒に行く用事を作るのも一つの形です。代理人の届出の条件を聞くだけなら手続きではないので、本人の負担も小さく済みます。聞いてみて必要ないと分かれば、それはそれで確認が済んだことになります。

当サイトは弁護士・司法書士・税理士等の有資格者による監修を受けていません。制度の解釈や個別の適否の助言は行わず、公表資料から読み取れる内容と確認日を並べるところまでを書いています。実際の取扱いは銀行ごとに異なりうるため、取引先の金融機関の窓口でご確認ください。

出典は全国銀行協会「金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方」(2021年2月18日公表)の公表版で、2026年8月25日時点の掲載内容を確認しました。